農地パトロールは、農業委員会にとって法定業務でありながら、対象圃場の膨大さ・猛暑下での現地調査・調査員不足という三重の負担を抱えています。本ホワイトペーパーでは、山梨県の実証事業「第9期TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」において実施した「SAR・光学衛星×AI による遊休農地探索実証」の結果を報告します。
実証のポイント
山梨県は全国有数の果樹産地であり、かつ中山間地域を多く抱えます。北杜市・韮崎市・山梨市の3自治体と連携し、約4,000圃場の現地調査データをもとにAIモデルを再学習。従来モデルで課題だった果樹園・中山間地における判定精度を大幅に改善しました。
・ 耕作地判定精度: 69% → 98% (+29pt)
・ 果樹園判定精度: 53% → 92% (+39pt)
・ パトロール対象圃場数: 基準 → 最大90%削減
制度面での追い風
農林水産省は令和6年3月に農地パトロールの実施要領見直しを示しており、衛星・AIによる事前絞り込みを制度上活用できる環境が整いつつあります。自治体業務の効率化・農地パトロールの安全性向上に直結する「遊休農地探索AI」の活用ニーズは、今後さらに高まる見通しです。
(参考: 「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース大臣会合施策概要」(令和6年3月 農林水産省))
1. 背景・課題
農業従事者の高齢化や担い手不足に伴い、遊休農地・耕作放棄地は全国的に増加傾向にあります。耕作が放棄された農地は、雑草や樹木の侵入により荒廃が進行し、やがて農地として再生困難となるケースも少なくありません。各自治体は法令に基づき、農地パトロールを通じて遊休農地の把握・是正を実施していますが、弊社が実施したヒアリングでは、以下のような課題が挙げられました。
・ 対象圃場数が膨大で、全件調査に多大な時間がかかる
・ 猛暑・山間部での現地調査による体力的・安全上の負担
・ クマやイノシシなどの鳥獣との遭遇リスク
・ 調査員によって判定にばらつきが生じやすい
・ データの一元管理が不十分で、記録・引き継ぎに手間がかかる
衛星データはこうした広域観測の課題に有効ですが、従来モデルには果樹地帯・中山間地域での判定精度に技術的課題がありました。本実証は、その課題に正面から取り組むものです。
2. 実証概要
山梨県では、令和6年度時点で6,786haの耕作放棄地が確認され、そのうち3,900haの解消が目標とされています。また、同県は全国有数の果樹産地でもあり、植生構造が複雑なため、AI解析の難易度が高い地域です。本実証では、SARと光学の2種類の衛星データを独自AIで解析する「遊休農地探索AI」の精度向上に取り組みました。
・ SAR (Synthetic Aperture Radar, 合成開口レーダー) 衛星: 電波を用いるため、天候や昼夜に左右されず観測が可能。植生や密度、葉・枝・茎の配置や高さ等の構造情報を取得。
・ 光学衛星: 可視光・近赤外などを用いて、植生の活性度や色調を解析。
各圃場の遊休農地度合いを10段階で推定し、農業委員会が「遊休農地レベルが高い圃場」に絞り込んだ調査を実施できるようにします。

3. 実証内容
本事業では、協力自治体とともに以下の実証を実施しました。
(1) 現地データ収集
約4,000圃場にて、耕作地・遊休農地・果樹園等の現地調査を実施。それらを教師データ(AI学習用データ)とし、AIの判定精度を向上。
(2) 中山間・果樹対応モデルの構築
果樹特有の植生パターンや自治体ごとの地域特性を考慮したモデルの再学習を実施。
(3) 精度検証および業務活用検証
農地パトロール業務への活用可能性と、自治体既存システムとの連携について検証・ヒアリングを実施。

4. 導入効果
4-1. 「耕作地」の判定精度
遊休農地判定をする際、「耕作地」を的確に判定する技術も欠かせません。北杜市の正解データ(テストデータ)を用いた検証では、耕作地の判定精度が69%から98%へと約29ポイント向上しました。

4-2. 果樹園の判定精度
山梨市でのテストデータでは、果樹園の判定精度が52%から92%へと約40ポイント向上し、果樹地帯での実用水準に達したことを確認しました。

4-3. 全体精度
自治体のパトロール結果との照合では、全体精度74%以上・耕作地判定精度80%以上を確認しています。遊休農地の検出については現在もモデル改良を継続しており、精度向上に取り組んでいます。

4-4. パトロール工数削減効果
遊休農地判定圃場のみに絞り込んだ場合、最大で80%〜90%の調査対象地削減が可能であるとシミュレーションいたしました。
・ 北杜市: 93,148圃場 → 17,389圃場 (約81%削減)
・ 韮崎市: 44,800圃場 → 4,361圃場 (約90%削減)
※ ただし、約16%の遊休農地の見逃しの可能性あり → 要改善点

5. 自治体からのフィードバック
3自治体へのヒアリングでは、以下の効果が期待されるとの評価を得ました。
・ 調査準備期間の短縮 (数週間〜数ヶ月 → 約1週間)
・ 調査員・事務局負担の軽減
・ 夏季における判定精度の安定化
・ 新規遊休農地の早期発見
・ 鳥獣害・山林化進行の抑制
・ 固定資産税調査や違法転用対策への応用
6. まとめ
本実証により、衛星データとAIを活用した遊休農地探索が、農地パトロール業務の効率化に実質的に貢献できることを確認しました。
主な成果:
・ 耕作地判定 +29ポイント、果樹判定 +40ポイントの精度改善
・ パトロール対象圃場を最大約90%削減
今回の実証で得た学習データと知見は他地域にも転用可能であり、山梨県全域への展開を視野に入れるとともに、全国の果樹地帯・中山間地への応用を進めてまいります。
遊休農地探索AIのデモ画面で、確率スコアの可視化サンプルをご確認いただけます。
遊休農地探索AIのデモを試す →