//SAR衛星×AIによる浸水域解析 ─ 2025年の九州での豪雨事例
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SAR衛星×AIによる浸水域解析
─ 2025年の九州での豪雨事例

SAR衛星×AIによる浸水域解析 ─ 2025年の九州での豪雨事例

近年、日本国内では豪雨災害の発生件数が増加傾向にあり、浸水や土砂崩落などによる被害の広域化・同時多発化とその対策が課題となっています。本ホワイトペーパーでは、弊社が開発した「災害検知AI」を用いて、2025年8月の九州豪雨で発生した浸水域および土砂崩落を解析した事例を紹介します。AIを用いたSAR衛星の画像解析による被害状況把握が、今後どのように活用し得るのか、実際の解析結果をもとに解説します。

背景: 激甚化する豪雨災害と被害把握の課題

近年、日本国内では毎年のように「数十年に一度」とされる豪雨災害が発生しています。特に九州地方は地形や気候の特性から被害が集中しやすく、2025年も広域で浸水が報告されました。このような災害対応において最も重要となるのは「被害の早期把握」です。救助や避難の判断、インフラ復旧や金融リスク評価など、多様な意思決定が災害直後に集中します。しかし従来は現地調査や航空写真に依存しており、数日から数週間を要することが課題となっていました。

この課題を解決するために注目されているのが、全天候・夜間観測が可能なSAR衛星と、それを解析するAI技術です。

熊本県の8月豪雨について

令和7年(2025年)8月6日から12日にかけて、線状降水帯や前線の影響により、西日本・北日本の広い範囲で記録的な大雨が発生しました。九州地方は大雨に起因する水害等の被害が多発する地域ですが、特に熊本県では短期間に非常に強い降雨が集中しました。

この期間中、熊本県では1時間に110ミリ以上の降雨が予測される「記録的短時間大雨情報」が15回発令され、8月10日から11日にかけては各地で浸水や土砂崩落などの被害が確認されました。被害は広域かつ同時多発的に発生しており、迅速な被害状況の把握が求められる状況でした。

このような状況を受け、弊社では復興支援の一助となることを目的に、「災害検知AI」を用いて浸水域および土砂崩落の解析を実施しました。

浸水域の解析について

検知方法

災害検知AIは、SAR(合成開口レーダー)衛星が取得した画像を解析することで、浸水が発生した可能性のある領域を検出します。SAR衛星は地表に向けてマイクロ波を照射し、その反射の強さを画像として記録する観測手法であり、天候や昼夜の影響を受けずに観測できる特長があります。そのため、曇天などにより光学衛星では観測が難しい場合などでも撮像可能です。

浸水が発生した水面は、周囲の地表と比べてマイクロ波を鏡のように反射しやすく、SAR画像上では暗く写る傾向があります。このような水面特有の反射特性を解析することで、単一画像から浸水域を抽出しています。さらに、地形データと組み合わせることで、浸水範囲だけでなく浸水深の推定も行うことができます。

(※2025年12月時点では、Capella / ALOS / Sentinel-1のSAR衛星データに対応しています。)

検知結果

左: 熊本県嘉島町井寺地区および御船町豊秋エリアの広域解析結果 / 右: 御船町豊秋周辺の拡大 (青色が濃い箇所ほど浸水リスクが高い)
左: 熊本県嘉島町井寺地区および御船町豊秋エリアの広域解析結果 / 右: 御船町豊秋周辺の拡大 (青色が濃い箇所ほど浸水リスクが高い)
図2 AI-Estimated High-Risk Flooded Areas / Capella Space Corp.

米国Capella Space社のSAR衛星が取得したデータをもとに、熊本県の嘉島町井寺地区および御船町豊秋エリアにおける浸水の可能性がある領域を抽出しました。左図は解析対象エリア全体を俯瞰した結果であり、青色が濃くなるほど浸水リスクが高いことを示しています。右図は御船町豊秋周辺を拡大したもので、住宅地や商業施設が集積するエリアにおいて、浸水の可能性がある領域が連続的に分布している様子が確認できます。

このように、SAR衛星データを用いることで、広域の被害状況を俯瞰すると同時に、重点的に確認すべきエリアを把握することが可能です。

土砂崩落の解析について

検知方法

災害検知AIでは土砂崩落が発生した可能性のある領域も検出することができます。土砂崩落は、降雨などを契機として地表の状態が大きく変化する現象であり、災害前後で地表構造が変化する点に特徴があります。

SAR衛星は地表に向けてマイクロ波を照射し、その反射の強さや散乱の仕方を画像として記録します。植生に覆われた斜面や安定した地表では、電波は一定の散乱特性を示しますが、土砂崩落が発生すると、植生の流失や裸地・岩盤の露出、斜面形状の変化などにより、電波の散乱特性が大きく変化します。本解析では、災害発生前後に取得されたSAR画像を比較し、反射強度や散乱特性の変化をAIが解析することで、土砂崩落が発生した可能性のある領域を抽出しています。

この手法により、現地調査が困難な災害直後の状況においても、広域かつ効率的に被害の把握が可能となります。

検知結果

ALOS-2 SAR画像上に災害検知AIが土砂崩落の可能性が高いと判断したエリアを赤色で表示
ALOS-2 SAR画像上に災害検知AIが土砂崩落の可能性が高いと判断したエリアを赤色で表示
土砂崩落の可能性をメッシュ状に可視化 (赤色が濃いほど可能性が高い)
土砂崩落の可能性をメッシュ状に可視化 (赤色が濃いほど可能性が高い)
図3 熊本県八代市周辺における土砂移動の推定箇所 / ALOS-2 ©JAXA

本解析では、JAXAが運用するSAR衛星「ALOS-2」が取得したデータを用いて土砂崩落の検知を行いました。その結果、熊本県八代市周辺の一部地域において、土砂移動が発生した可能性を示す領域が抽出されました。

解析結果のご提供までの流れ

弊社の解析結果のお渡しまでの流れについてご説明します。発災後、CapellaやALOSが撮像した画像を取得します。衛星データの取得後は、弊社が開発した「災害検知AI」によって、浸水域や土砂崩落の可能性がある領域を自動解析します。衛星データを取得後、解析結果のお渡しは最短1営業日でのお渡しが可能で、広域の被害状況を面的に把握することが可能です。

一方、公的機関による被災状況の確報は、現地調査や自治体からの報告をもとに取りまとめられるため、発災から数日〜数週間を要するケースもあります。弊社の解析結果は、これらの確報に先立ち、初動対応や現地調査の優先順位付け、被害の全体像把握を支援する「一次情報」としてご活用いただけるものと考えております。

社会的意義と想定されるユースケース

本事例は、SAR衛星とAI解析を活用し、災害発生時の被害状況把握を支援する取り組みです。災害直後は、現地調査や自治体からの報告が十分に集まらない状況も多く、広域的な被害の全体像を把握することが難しいという課題があります。本解析は、そうした初動フェーズにおいて、被害状況を面的に把握するための補助的な情報を提供することを目的としています。

防災分野

災害直後に浸水域や土砂崩落の可能性を可視化することで、自治体による避難対応や現地調査の優先順位付けを検討する際の参考情報として活用が期待されます。また、過去の災害データを蓄積することで、ハザードマップの見直しや防災施策検討の補助資料としての活用も考えられます。

報道分野

被害の全体像を早期に把握するための参考情報として活用することで、災害状況を広域的・俯瞰的に伝えることが可能となります。

金融・保険分野

被害状況を把握するための初期データとして活用することで、保険金支払いに向けた調査やリスク評価を検討する際の参考情報となることが期待されます。

不動産分野

管理物件や投資検討エリアにおいて、過去の災害に遡った被災状況を確認することで、物件管理や投資判断におけるリスク評価の一助となります。

SAR衛星とAI解析による被害状況の可視化は、災害対応における初動判断を支援する情報手段の一つです。今後、他の情報源や現地調査と組み合わせて活用することで、防災・減災に向けた取り組みへの貢献が期待されます。

終わりに

本ホワイトペーパーでは、九州で発生した豪雨災害の事例をもとに、SAR衛星画像とAI解析を活用した浸水域および土砂崩落の検知結果と、その具体的な活用可能性について紹介しました。本事例を通じて、災害発生直後の限られた情報環境においても、広域を対象に被害状況を把握できる手段が存在することを示しています。

衛星データを用いた解析は、現地調査や公的発表を代替するものではありませんが、初動対応における状況把握や、調査・判断を行うための参考情報として活用することが可能です。また、過去のアーカイブ画像を用いることで、災害履歴の確認やリスク評価など、平時における防災・資産管理への応用も期待されます。

スペースシフトは、SAR衛星とAI解析を活用した被害状況の可視化を通じて、災害対応に関わる多様な関係者の意思決定を支援する情報提供を行ってきました。今後も、実際の運用に寄り添いながら、社会にとって有用な解析技術の提供に取り組んでまいります。

[クレジット表記] Capella Space Corp, All Rights Reserved / JAXA ALOS-2 / © OpenStreetMap contributors / Analysis by Space Shift Inc. (The analysis results are not definitive.)

災害検知AIのデモ画面で、過去の災害事例(能登半島地震・令和2年豪雨)の解析サンプルをご確認いただけます。

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